なぜ効果がないニキビ跡治療が普及しているのか?について医学的に解説します|クリニックひいらぎ皮膚科形成外科|目黒区・池尻大橋駅

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医療コラム

なぜ効果がないニキビ跡治療が普及しているのか?について医学的に解説します|クリニックひいらぎ皮膚科形成外科|目黒区・池尻大橋駅

なぜ効果がないニキビ跡治療が普及しているのか?について医学的に解説します

クリニックひいらぎ皮膚科形成外科の藤木政英です。

今回は、なぜ効果がない(と感じる)ニキビ跡治療が普及しているのかについて医学的に解説します。わかりやすい表現をするように努めていますが、予め当院のニキビ跡のページ(ニキビ跡|クリニックひいらぎ皮膚科形成外科|目黒区・池尻大橋駅 (clinic-hiiragi.jp))を読んでいただくと理解しやすいと思います。

 

美容クリニックでニキビ跡(萎縮性瘢痕、いわゆるクレーター)の治療を行い、高額の費用を支払ったにも関わらずほとんど効果を感じることができなかったという方が毎日のように当院を受診されます。お話を伺うと、最初に510回ほどの高額なコースを組み、ダーマペンやフラクショナルレーザー、ポテンツァ、シルファームあたりを行うことが多いようです。これらの施術を行い、効果を実感することができなくても、「回数を重ねることで良くなりますよ」と説明され、「次はこの治療をしてみましょう」と新たなコース契約を勧められることもあるようです。

確かにこうした治療を繰り返し行うことでニキビ跡が改善する方はいます。しかし、なぜ多くの方はこうした治療で効果を実感することができないのでしょうか。

 

皮膚は浅いところから表皮、真皮、皮下組織という構造に分かれますが、真皮や皮下組織に損傷や炎症を生じると、皮膚が瘢痕組織という硬い組織に置き換わります(表皮のみの損傷は上皮化という機序で再生するため、瘢痕組織に置き換わることなく、跡を残さずに治癒します)。さらに、損傷や炎症が起きた組織は縮んで治癒する性質があるため、ニキビが繰り返しできることによって徐々に組織が収縮し、皮膚が陥凹してニキビ跡になります(深い熱傷やケガが縮んで治るのと同じ理屈です)。つまり、ニキビ跡(萎縮性瘢痕)は正常皮膚が瘢痕組織によって置き換わること、組織が収縮することで皮膚が陥凹することによって起こります(実際に、ニキビ跡は英語で「acne scar (acne:ニキビ、scar:瘢痕)」と表現されます)

創傷治癒を専門とする私たちは、瘢痕によって組織が収縮した状態を治療する際に、瘢痕を切り離すこと、そして切り離したことによって不足した組織を外から補うことを考えます。例えば、このように熱傷で皮膚が拘縮し、関節が動かなくなった方を治療する際、私たちは拘縮した部分の皮膚を切り離し、生じた皮膚の欠損に対して他の部分から植皮(皮膚移植)や皮弁移植(血流のある組織の移植)を行うことで、不足した皮膚を補います。

 

では、ニキビ跡の治療について考えてみます。ダーマペン、フラクショナルレーザー、ポテンツァ、シルファームなどは、表皮や真皮にあえて損傷を加え、創傷治癒を促すことによって、皮膚の再構築を促す治療です。足りない組織を外から補うような治療では決してありません。では、本当にこうした治療のみで皮膚の瘢痕組織が減少し、収縮した組織を補うだけの皮膚の再構築が起こるのでしょうか?

 

結論としては、瘢痕形成や組織の収縮の少ないニキビ跡(主にボックスカー型)には効果が期待できると考えますが、ローリング型やアイスピック型は多少の皮膚の再構築程度では治療効果を実感することができません。例えは不適切かもしれませんが、1mの深さの落とし穴が10cmになったとしたら浅くなったことがわかりますが、5mの深さの落とし穴が4mになったとしても浅くなっているように見えません。

そのため、さきほどの熱傷の例で説明したように、ニキビ跡の治療においても瘢痕を切り離すこと、他の部分から組織を補うことが重要な治療選択肢です。ニキビ跡の治療において「瘢痕を切り離すこと」にあたるのがサブシジョンであり、「他の部分から組織を補うこと」がヒアルロン酸(あるいは脂肪注入)になります。一般的にサブシジョンはローリング型に有効とされていますが、実際にはアイスピック型やボックスカー型も皮下組織(正確には真皮とSMASという筋膜の間)の瘢痕形成がありますので、どの種類のニキビ跡にも有効です。そのため、「サブシジョン」+「ヒアルロン酸 or 脂肪注入」+「皮膚の再構築を促す治療」というのが医学的に妥当なニキビ跡治療と言えると思います(ニキビ跡治療で有名な花房火月先生が提唱している治療法です)。

ヒアルロン酸は6ヵ月前後で吸収されます(種類によります)が、それまでにサブシジョンを行った部位で組織の再構築が起こることが期待できます。ただし、サブシジョンで切り離したところに再度の癒着が生じる可能性は否定できません。そのため、サブシジョン後に自然吸収されない脂肪注入を行う方法も海外では論文として報告されています(Shetty VH, J Cosmet Dermatol, 2021)。しかし、脂肪吸引や脂肪注入をできる医師や施設が限られていること、手術侵襲が大きくなること、脂肪注入量の微調整が難しいこともあり、ニキビ跡に対する脂肪注入は日本ではほとんど行われていません。ニキビ跡の治療は難しく、今後も治療を発展させる必要性を感じていますので、当院では近日中にニキビ跡に対するサブシジョン+脂肪注入を開始する予定です(その際はホームページに掲載します)。

 

 

では、医学的には効果が不十分なことが予測されるにも関わらず、なぜ今でも皮膚の再構築を促す治療を単独で行うことがニキビ跡治療の主流なのでしょうか。私の予測に過ぎませんが、以下のようなことが考えられます。

①ダウンタイムが少ないため患者さんに受け入れられやすい。

②特殊な技術が必要ないため、皮膚科医や形成外科医でなくても施術をすることができる(実際には、治療効果を最大限にする施術のコツはあります)

③医療者が、患者さんに他の治療選択肢を提示できるだけの知識や経験がない。

 

世の中の多くのニキビ跡治療の効果がないのは、創傷治癒に関する医療者の知識・経験不足から起きているように思います。医療は魔法ではありませんので、瘢痕組織を減らすこと、足りない組織を補うことは簡単ではありません。だからこそ、医療者は深い知識が必要であり、誠実に患者さんに向き合う必要があると考えます。ニキビ跡の治療でお悩みの方は、皮膚科専門医か形成外科専門医の治療を受けることをお勧めします。

藤木政英

監修 藤木政英(医学博士)
クリニックひいらぎ皮膚科形成外科 院長

皮膚科学と形成外科学の両面から最善の治療を提供しています。
これまで大学病院、虎の門病院、国立がん研究センターなど、第一線の病院で勤務してきた経験から、医学的根拠に基づく誠実な医療を行うことを心がけています。特に形成外科・皮膚外科の日帰り手術、レーザー治療に力を入れており、短時間で終える治療は初診時に行うことができる体制を整えています(詳しくはホームページをご覧下さい)。

皮膚や形態、機能の病気で悩む方に、「より良い人生を送るための医療」を提供するためにクリニックひいらぎを開院しました。

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