なぜ真性女性化乳房症に対して保険適用で日帰り手術をする医療機関がないのか?
- 2024年4月16日
- 日帰り手術
クリニックひいらぎ皮膚科形成外科の藤木政英です。
真性女性化乳房症は10000人に3人ほどが発症するとされている稀な疾患です。片側、あるいは両側の乳腺組織が肥大し、男性の乳房が女性のように発育します。そのため、温泉やジムに行くことができない、胸部を隠すために薄着になれない、など日常生活に影響を及ぼすことがあります。
女性化乳房症の方から「保険適用で日帰り手術をしてくれる病院が見つからない」という話を聞きます。女性化乳房症の手術は単に乳腺を切除するのみではなく、全体のバランスを見ながら乳腺周囲の脂肪組織も切除や吸引をすることが必要です。手術後は厳密な圧迫や安静が必要であり、治療難易度が高いというのが原因の1つかもしれません。しかし、最大の理由は、女性化乳房症の手術は「採算が取れない」ためと言われています。プラストクリニックの先生も同様の見解を述べています(当院の女性化乳房症手術の費用が安い理由 – 【東京 日暮里】プラストクリニック 形成外科・美容皮膚科・美容外科 (mpg-abk.jp))。ここから先はお金に関する話なので、不快に思われる方は読み飛ばしてください。医療とお金は相容れないことは承知していますが、現状を知っていただくために避けて通れない話でもあります。
実は、女性化乳房症に対する保険適用の基準は決まっておらず、保険点数(治療費)も明確なものはありません。多くの病院では保険点数として「乳腺腫瘍摘出術 5cm以上 6730点」を適用しています。6730点というのは63700円であり、3割負担の方の自己負担額は20000円程度になります。
「病院にとって67300円の収入になるなら十分ではないか」と考えられる方もいると思います。しかし、その中には医師や看護師、スタッフの人件費、医療機器の購入費用や滅菌費用、縫合針やドレーン、ガーゼ、弾性包帯などの材料費も含まれています。また、女性化乳房症の手術は片側あたり2時間程度かかることもありますし、手術後は厳密な圧迫や安静を行いますので、手間がかかる治療です。そのため、女性化乳房症を日帰り手術で治療すると、医療機関は赤字になってしまうのです。職員や通院してくれる患者さんを守ることも医療機関の重要な役割なので、赤字になる治療を積極的にできるはずがありません。そのため、女性化乳房症に対して保険適用で日帰り手術を行う医療機関はほとんどないのです。女性化乳房症は稀な疾患であるため、このことは問題として提起されていませんが、女性化乳房症に悩む方にとっては大きな問題です。しかし、医療費を削減する流れの中で今後保険点数が上がるとは考えにくく、現状が変わる可能性は低いと考えます。
当院は皮膚外科・形成外科の日帰り手術を提供する医療機関であり、質の高い日帰り手術の普及を目指しています。そのため、当初は女性化乳房症に対して保険適用の日帰り手術を行っていましたが、このような背景から継続を断念しました。現在、女性化乳房症に対して自由診療で日帰り手術をしていますが、費用によって治療を諦める方がいなくなるように一般的な相場の半額程度にしています。保険診療の際も徹底的にこだわった手術をしていましたが、自由診療にした分、これまで以上にしっかりと時間をかけ、最善の仕上がりになるように治療を行っています。
監修 藤木政英(医学博士)
クリニックひいらぎ皮膚科形成外科 院長
皮膚科学と形成外科学の両面から最善の治療を提供しています。
これまで大学病院、虎の門病院、国立がん研究センターなど、第一線の病院で勤務してきた経験から、医学的根拠に基づく誠実な医療を行うことを心がけています。特に形成外科・皮膚外科の日帰り手術、レーザー治療に力を入れており、短時間で終える治療は初診時に行うことができる体制を整えています(詳しくはホームページをご覧下さい)。
皮膚や形態、機能の病気で悩む方に、「より良い人生を送るための医療」を提供するためにクリニックひいらぎを開院しました。