ニキビ跡治療後にフィブラストスプレーを使う意義
- 2024年9月12日
- 日帰り手術
クリニックひいらぎ皮膚科形成外科の藤木政英です。
フィブラストスプレーとは、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor)を含む製剤であり、線維芽細胞や血管内皮細胞などのキズの治癒に関係する細胞の力(増殖能、遊走能)を高め、血管新生や肉芽形成を促進する作用があります。その結果、キズが治癒するまでの期間を短縮することができ、褥瘡と皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍など)に対して保険適用となっています。
また、単にキズを早く治癒させるだけではなく、瘢痕組織の質を改善させることもできます。具体的には、瘢痕組織が柔らかくなること、色素沈着が少なくなること、肥厚性瘢痕になるリスクを下げること、などが挙げられます。つまり、瘢痕組織を形成するような深い(特に真皮深層より深い)キズに対しては、フィブラストスプレーを用いることでキズが目立ちにくく治る可能性があります。
通常、瘢痕形成が起こるほど炭酸ガスレーザーで正常皮膚を深く削ることは少なく、フィブラストスプレーを用いることはまずありません。しかし、ニキビ跡は繰り返す炎症によって正常皮膚がもともと瘢痕組織に置き換わっています(瘢痕形成の程度の個人差はあります)。結果として、ニキビ跡に対して炭酸ガスレーザーを照射するということは、部分的に瘢痕組織を蒸散しているため、削った部分は部分的に瘢痕形成を起こして治癒しています。そのため、瘢痕形成の強いニキビ跡に対する炭酸ガスレーザー照射後にフィブラストスプレーを使うことで、キズを早く治癒させる効果と目立ちにくく治る効果が期待できます。実際、1例だけの報告ですが、アイスピック型のニキビ跡に対して、フィブラストスプレーを使用することでニキビ跡の著明な改善があったとする論文があります(J Dermatol, 2018)。
以前は、ニキビ跡に対する炭酸ガスレーザー治療後にフィブラストスプレーを使う意義は不明であると考えていました。しかし、多くの方を治療する中で、どれほど丁寧に治療しても瘢痕形成が強いニキビ跡(特にローリング型とアイスピック型)には治療限界があることもわかってきました。そのため、瘢痕形成が強いニキビ跡に限定してフィブラストスプレーを用いたところ、治療結果の改善やダウンタイムの軽減が得られるようになりました(ただし、医学的な詳細なデータ解析は行っておらず、あくまで当院での経験上の効果です)。そのため、当院では瘢痕形成が強いニキビ跡に対してフィブラストスプレーを積極的に用いる方針にしています。
ただし、フィブラストスプレーを用いたとしても、キズの湿潤環境を維持するために軟膏や創傷被覆材の併用は必須であり、キズが治癒したらフィブラストスプレーの使用を終了してください(炭酸ガスレーザー照射後2週間が目安)。また、しこりや皮膚の盛り上がりを引き起こす可能性があるため絶対に皮膚に注入して使用しないでください。投与部位に悪性腫瘍や過敏症の既往がある方は用いることができないこともご了承ください。
ニキビ跡は、現在でも医学的根拠に基づく治療法が確立しておらず日進月歩の分野です。専門医が所属する医療機関として、当院は最適な治療法を提供できるように真剣に取り組んでいます。
監修 藤木政英(医学博士)
クリニックひいらぎ皮膚科形成外科 院長
皮膚科学と形成外科学の両面から最善の治療を提供しています。
これまで大学病院、虎の門病院、国立がん研究センターなど、第一線の病院で勤務してきた経験から、医学的根拠に基づく誠実な医療を行うことを心がけています。特に形成外科・皮膚外科の日帰り手術、レーザー治療に力を入れており、短時間で終える治療は初診時に行うことができる体制を整えています(詳しくはホームページをご覧下さい)。
皮膚や形態、機能の病気で悩む方に、「より良い人生を送るための医療」を提供するためにクリニックひいらぎを開院しました。