
いちご状血管腫
いちご状血管腫
いちご状血管腫とは、乳児血管腫と呼ばれることもある赤ちゃんの赤アザです。日本人の1%程度に発症し、珍しい病気ではありません(未熟児では発症率が高くなります)。
生まれつき見られることもありますが、多くは生後1週間~数週間以内に生じます。表面が扁平に盛り上がる「局面型」、半球状に盛り上がる「腫瘤型」、皮膚には病変がなく皮膚の下が盛り上がる「皮下型」、これらの「混合型」の4種類に分類されています。
1歳頃まで比較的急速に増大し(増殖期)、1歳頃からゆっくりと縮小して色調も薄くなっていきます(退縮期)。一般的に5歳で50%、7歳で70%が自然消退するとされています。しかし、「自然消退」したとしても最終的に周囲の皮膚と全く同じ状態になるとは限りません。実際には、皮膚の萎縮や瘢痕、色素脱失などが残ることが多く、特に大きな病変ほどその頻度が高くなります(「自然消退=正常皮膚になる」ではありません)。そのため、自然消退したときにこうした皮膚の変化を最小限にするために、早期からレーザー照射を行うことが重要です。
自然に消退する傾向があるため治療を行わずに経過観察を勧められていた時代がありましたが、現在ではレーザー照射が第一選択の治療法です。Vビーム Ⅱというレーザーを用い、病変の増大をできるだけ少なくし、消退後の目立つ瘢痕を少なくすることが重要です。レーザー照射は局面型に効果が高く、腫瘤型では局面型より効果が落ちます。皮下型はレーザー照射の効果がありませんので、レーザー治療の適応外です。
レーザー照射の目安は3カ月に1回ですが、急速に増大する傾向があるときなどは1~2ヵ月に1回照射することがあります。いちご状血管腫は1歳まで増大する傾向があり、早めに治療を開始した方がいいため、初診時(できるだけ早く)からレーザー照射を行います。
レーザー照射を行うことにより早期に退縮期に移行し、最終的に目立たなくなる可能性が高くなりますが、全ての病変が完全に消退するわけではありません。7歳頃になっても皮膚の萎縮や瘢痕、色素脱失が目立つときは手術が治療選択肢になります。
Vビーム Ⅱは「赤みを取るレーザー」と思われがちですが、これは正確ではありません。Vビーム Ⅱのレーザー光は血管内のヘモグロビンに吸収され、光エネルギーが熱エネルギーに変換し、熱が発生することで血管を閉塞させます。つまり、Vビーム Ⅱは赤いものに反応しているわけではなく、血管内のヘモグロビンに反応して血管を破壊することで効果を現します(実際、Vビーム Ⅱは赤色の刺青(タトゥー)には効果はありません)。
そのため、ヘモグロビンが少ないごく細い血管や、血管を閉塞させるほど十分な熱を発生させることができない静脈瘤のような太い血管には効果が限定的です。
Vビーム Ⅱはパルス色素レーザーと呼ばれるレーザーの一種ですが、初期のパルス色素レーザーより効果、安全性とも格段に高くなっています。特に初期のパルス色素レーザーと比較して大きく改善したのは、サブパルスという方法が開発されたことによります。初期のレーザーでは、1回の照射で1発のパルスのみ(単パルス)であったため、0.45m秒という短い照射時間幅(パルス幅)しか用いることはできませんでした。短いパルス幅では、細い血管病変の治療はできるのですが、太い血管病変には効果がありません。そのため、初期の色素レーザーは限られた病変にしか効果がありませんでした。
しかし、複数のパルスを一定の間隔で連続で発振することで、疑似的に長いパルスとして出力するサブパルスが開発されたことによりパルス幅が0.45~40m秒まで調整することができるようになりました。詳細な機序は割愛しますが、このことによりこれまでは治療できなかったさまざまな血管病変の治療を行うことができるようになりました。
Vビーム Ⅱの有名な合併症として、紫斑があります。紫斑は、血管が破壊された結果、血管から血液が漏出することによって生じます。そのため、血管が破壊されたことを示しているため、紫斑が生じることは必ずしも悪いことではありません。いちご状血管腫ではあまり紫斑が出ないように照射をしますが、単純性血管腫という疾患ではあえて紫斑が出るように照射をしています。
効果、ダウンタイムなどを考慮して、レーザーの設定を細かく調整できるのもVビーム Ⅱの特徴です。
いちご状血管腫に対するレーザー治療の有用性は確立していますが、今でも「いちご状血管腫は自然に消えるので経過観察をしてもいい」と説明する医師がいます(ご年配の産科医、小児科医に多いようです)。実はこのように説明する医師がいるのには、少し複雑な背景があります。
2002年にイギリスから「Randomised controlled study of early pulsed dye laser treatment of uncomplicated childhood haemangiomas: results of a 1-year analysis」という論文が発表されました。この論文では「いちご状血管腫を持つ1歳以下の121名の子供を、色素レーザーを照射する群と経過観察のみを行う群に分け、ランダム化比較試験(臨床試験の中で最も質が高い方法)を行ったところ、いちご状血管腫が消失した割合は両群で有意差はなく、むしろ皮膚の萎縮や色素脱失はレーザー照射群に高率で生じた」という結果でした。つまり、「レーザーを照射してもいちご状血管腫の消退を早めることはなく、合併症が生じるリスクが高くなる」と結論付けたものでした。
この論文がLancetという医師なら誰でも知っている有名な臨床系の雑誌に掲載されたので、多くの人に読まれることになりました。そのため、今でも「いちご状血管腫にレーザーを照射する必要はない」と信じている医師がいます。
しかし、この論文にはいくつかの問題点があります。まず、585nmという現在では用いられない波長のレーザーを用いていること、パルス幅が0.45msといちご状血管腫に用いるには短すぎること、レーザーの冷却装置が用いられていないこと、照射間隔が2~4週間ごとであり極端に短いこと、などが挙げられます(詳細は割愛しますが現在ではこのような照射方法は行いません)。
現代でいちご状血管腫に対してレーザー照射は意味がないと主張する皮膚科医や形成外科医はおらず、有効性、安全性ともに確立した治療法です。
いちご状血管腫に対してプロプラノロール(製品名:ヘマンジオルシロップ)という内服薬を用いることがあります。
プロプラノロールはもともと降圧薬として用いられてきた薬剤ですが、2008年に巨大ないちご状血管腫がある赤ちゃんに併発した心臓の病気(閉塞性肥大型心筋症)に対してプロプラノロールが投与され、それが偶然いちご状血管腫の退縮をもたらした症例が報告されました。その症例報告以降、さまざまな臨床研究が行われ、現在ではいちご状血管腫に対してプロプラノールが広く用いられています。
プロプラノロールは非常に高い治療効果がありますが、血圧低下、徐脈、低血糖、呼吸障害などの副作用があります。そのため、初回投与時は心拍や血糖値などを確認しながら導入することになり、多くの医療機関では入院管理下に行います。また、子どもの長期的な発達に与える影響がまだ十分にわかっていません。
そのため、プロプラノロールは全ての乳児血管腫に用いられるわけではなく、適用が限定されています。具体的には、鼻や口、気道などの生命に関わる部位にできたもの、機能障害を残す可能性があるもの、潰瘍形成や出血があるもの、著しい醜状変形が残る可能性があるもの、レーザー治療が無効な皮下型や混合型などです。
こうしたいちご状血管腫はプロプラノロールを導入できる大学病院の小児科などにご紹介します。
※治療費用の他に、診察料などがかかかります。
※3歳未満の治療は乳幼児加算(2200点)の費用が追加になります。
※自治体の医療費助成が適用されます(例:東京23区:18歳まで自己負担なし)。
医療費助成の対象年齢や助成費は自治体によって異なりますので、詳しくはお住いの市区町村にご確認ください。
10cm²未満 | 8,100円(3割負担) 2,700円(1割負担) |
10~20cm² | 9,600円(3割負担) 3,200円(1割負担) |
20~30cm² | 11,100円(3割負担) 3,700円(1割負担) |
30~40cm² | 12,600円(3割負担) 4,200円(1割負担) |
40~50cm² | 14,100円(3割負担) 4,700円(1割負担) |