アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎
かゆみのある湿疹が、慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。
皮膚には紫外線や細菌、ウイルスなどの外からの刺激から体を守る「バリア機能」の役割がありますが、アトピー性皮膚炎の方はこの「バリア機能」が低下しています。そのため、外からのわずかな刺激でもかゆみを感じやすくなり、強くかいてしまうことで炎症が悪化します。炎症が悪化するとさらにかゆみが強くなりますので、さらにかいてしまうという悪循環になります。
この悪循環に免疫の異常によって起こるアレルギー炎症も関与していることがわかっています。そのため、しっかり治療して、この悪循環を避けることが必要です。
アトピー性皮膚炎の症状は顔、首、手足の関節、体幹など、体のさまざまな部位にあらわれます。多くの場合は左右対称性でかゆみを伴います。
乳幼児期、小児期、思春期以降の3つの時期によって、症状が異なります。多くの方はアトピー素因がありますので、気管支喘息、花粉症などのアレルギー疾患を発症する可能性が高くなります。
「うちの子はアトピーでしょうか?」という質問をよく受けますが、医学上は以下のような症状が、乳児で2ヶ月以上、小児~成人は6ヶ月以上続くと、アトピー性皮膚炎と診断されます。しかし、アトピー性皮膚炎という診断をうけるかどうかに関わらず、特に子供のうちは全員スキンケアが必要です。かかりつけの皮膚科クリニックを決め、定期的に診察を受けるようにしてください。
頭や顔、首に症状が出やすく、悪化すると皮疹が全身にひろがります。離乳食や口まわりをこする刺激があるため、口まわりにも症状が出現します。乳児期に発症したアトピー性皮膚炎の多くは幼児期や小児期にかけて軽快していきます。
乳児期の症状が体や手足に広がります。症状は、特に肘や膝、お尻などこすれやすいところやかきむしりやすいところに出現します。
下半身よりも上半身に症状が出ることが多く、顔、首、胸、背中などに皮疹が強く出ます。眉毛の外側1/3が薄くなり、下まぶたにシワが生じるのも特徴です。思春期以降も症状が続く方や成人発症の方は慢性に経過する傾向があります。
アトピー性皮膚炎を確実に完治させる方法は確立していませんが、適切な治療を行うことにより、症状がない、あるいは日常生活に支障なく過ごすことができるようになります。夜ぐっすり眠れる、仕事や勉強に集中する、旅行を楽しむなど日常生活を楽しむことができるように、最適の治療を提案します。
近年、新たな治療選択肢が次々と出てきており、アトピー性皮膚炎の治療は大きく変わりました。しかし、今でもスキンケアと外用薬が最も重要な治療法であることは変わりません。毎日を快適に過ごすことができるように私たちも協力しますので、正しいスキンケアと薬の使い方を習得してください。
汗、乾燥、掻爬、ダニ、ほこり、ペットの毛、ストレスなどはアトピー性皮膚炎の悪化因子です。そのため、こうした因子を極力避けることができるように日常生活は以下のことに注意して下さい。
主にステロイド外用薬、外用免疫調節薬(プロトピック)、外用JAK阻害薬(コレクチム)、外用PDE4阻害薬(モイゼルト)の4種類が用いられます。これらの中で、ステロイド外用薬が基本的な外用薬になりますが、それぞれに特徴があるため症状に合わせて使い分けをします。
アトピー性皮膚炎に対する外用薬の効果は「塗っているときだけの一時的なもので、塗るのを止めると悪化する」と思われることがあります。しかし、こうした誤解は、外用薬の量が不十分であったり、皮膚に炎症が残っているにも関わらず良くなったと判断して外用薬を中断することが原因のことが多いようです。しばしば経験するのは、赤みが減った・かゆみがよくなったという時点で外用薬を中止してしまうことです。赤みやかゆみが軽快した時点では炎症が残っていることが多く、目をつぶって皮膚を触ったときに周囲の皮膚と違うゴワゴワ感やガサガサ感がなくなり、ツルツルになったと感じるまで外用薬は継続してください(ゴワゴワ感やガサガサ感は炎症が残っている所見です)。
かゆみが強いときは抗ヒスタミン薬などの内服薬でかゆみをおさえます。抗ヒスタミン薬にはいくつかの種類があり、効果、副作用、作用時間、生活習慣などを考慮して最適と考えられるものを処方します。しかし、人によって効き方が異なることがあるため、効果を感じることができないときや眠気が強いときなどはご相談ください。ステロイド内服薬や免疫抑制薬(ネオーラル)を内服することがありますが、16歳以上かつ既存の治療で十分な効果が得られない重症の方などに限定されます。
症状が強い部分に特殊な波長の紫外線をあてることで皮膚の炎症を改善させる方法です。皮膚の炎症が軽快することでかゆみが軽くなるため、外用薬や内服薬では軽快しないかゆみがある方に特に有効です。
1回の治療時間は数分程度で、照射中の痛みはほとんどありません。1週間に1~3回ほど照射しますが、症状が軽快したら照射の頻度は減らしていきます。最終的には照射が不要の状態にすることが目標です。
スキンケア、外用薬、内服薬、光線療法を行っても、十分な効果が得られないとき、「デュピクセント」という生物学的製剤による治療を行っております。デュピクセントは、「IL-4」と「IL-13」という物質のはたらきを抑えることで炎症やかゆみ、皮膚のバリア機能低下に対して効果をあらわします。高価な薬剤であるため常備しているクリニックは少ないですが、当院では患者さんに常に最善の治療選択肢を提示できるようにデュピクセントを常備しています(多くの方が同時に希望されると在庫がなくなってしまう可能性があるため、初診時に投与を希望される方は事前にお電話をください)。
デュピクセントは生後6カ月以上で、従来の治療で十分な効果が得られず、皮疹が広範囲に及ぶ方が対象となります。成人の方の場合、初回はクリニックで2本注射し、2週間後に受診してもらいます。その際に、ご自身で注射をする方法(自己注射)を習得してもらいますので、以降はご自宅で2週間ごとに注射を打つことができます。最大6本(3か月分)まで処方できますので、状態が安定していれば通院は3カ月に1度になります。
デュピクセントを用いたとしても、外用薬が不要になるわけではありません。外用薬を併用しながら寛解を維持することができるようになればデュピクセントの注射を中止します。注射する期間は6ヵ月間を目安としますが、皮膚の状態を診察して継続するかを判断します。
デュピクセントは非常に効果が高く、アトピー性皮膚炎の治療を大きく変えました。しかし、最大の欠点は薬価が高いことであり、1本あたり約18,000円(3割負担の場合)の自己負担になります。そのため、初回は36,000円、その後は2週間ごとに18,000円の負担となりますが、高額療養費制度の利用や3か月分まとめて処方することで自己負担額を最小限におさえることができます。自己負担額は年齢や年収などによって異なるため、詳しくは診察時に丁寧に説明いたします(こちらのサイトもわかりやすいです)。