
Z形成術
Z形成術
Z形成術とは名前の通りZの字のように皮膚を切開して2つの三角弁(三角の形をした血流のある組織:上図の青と緑の三角)を作り、これらを入れ替えて縫合する手術です。
Z形成術には主に以下の4つの効果があります。
①距離を延長する
②キズ跡の方向を変える
③組織の位置を変える
④「山」を「谷」にする
基本的にキズは縮んで治る性質があります(ケロイドや肥厚性瘢痕はさらにこの傾向が強くなります)。特に、直線の長いキズほど縮んで硬くなりやすく(もちろん多くの因子に左右されますが)、ときに瘢痕拘縮(キズ跡のひきつれによって関節などが思うように動かせなくなること)を生じます。顔などの露出部に瘢痕拘縮が起こると、変形によってマスクを外すことができないなど、日常生活に支障を生じることもあります。
そのため、こうした縮んでしまったキズ跡に対して、距離を延長することを目的としてZ形成術を行います(単純に縮んだものを延ばすというイメージです)。Z形成術は皮膚を切開する角度によって延長効果が変わり、図のように60°のZ形成術だと理論上は√3倍の延長効果を得られます(ただし、実際にはこのような二次元ではなく三次元で変化しており、皮膚の伸展性などの影響で理論上ほどの延長効果は得られません)。
この距離の延長効果を利用して瘢痕拘縮のみではなく、唇顎口蓋裂や耳介の先天異常などの治療にも用いられます。
これは①の距離を延長する効果に関連しますが、シワの方向に一致しなかったり関節をまたがるようなキズ跡は目立つものになったり、拘縮をきたしやすくなります。
そのため、Z形成術でキズ跡の方向を変えることによって拘縮を解除し、さらに張力(手術後にキズが引っ張られる方向)を分散することで目立つキズ跡や瘢痕拘縮の再発を予防します。また、長い直線状のキズを2本の短いキズに分断することで視覚的に目立たせなくする効果があるとされています(個人的にはこの効果にやや疑問はありますが)。
これはイメージしやすいと思います。
口角や鼻翼、外眼角、眉毛の位置の変形に対して組織を入れ替えることによって正常に近い位置に修正します。
特に指の間の瘢痕拘縮などで山のように隆起した瘢痕はZ形成術によって谷にすることができます。四面体効果とも言われますが、この効果を利用して指の間の水かき形成などを行います。これは文字や図では非常にイメージしにくいですので詳細は割愛します。
ただし、これらの説明は実臨床ではほとんど「机上の空論」です。Z形成術は術式としては単純ですが、適応やデザイン、血流や後戻りの予防などの細部にこだわった手術をするのは相当難しいです(局所皮弁が形成外科医の最終到達点という意見もあるくらいです)。実際の手術では、「まずこの部位を切開して三角弁がこの程度移動するようなら、次にここを切開し・・・、この三角弁が想定より移動しないようならここのデザインを微調整し・・」など多くのことを考えながら行っています。
また、私見ですが、Z形成術の欠点は瘢痕が幾何学的になることだと考えます。直線状のキズ跡を見ても「以前にケガをしたのかな」くらいに思われますが、Z状のキズ跡は通常生じません。そのため、本来Z形成術はキズ跡を目立たせなくすることを目的として行われることもありますが、不適切なZ形成術を受けると逆に目立つ幾何学的なキズ跡になるリスクがあると考えます。
そのため、一見単純そうに見える術式ですがZ形成術は経験豊富な医師や形成外科専門医の手術を受けることが重要です。
形成外科ではfive flap、five flap Z-plasty、jumping man flapなどと言われる局所皮弁です。パッと見ただけでは変な形のデザインに見えるかもしれませんが、これもいくつかの局所皮弁を組み合わせたものに過ぎません。
図のように青と緑の線で描いたZ形成術を2か所加えています。さらに中央部には赤の線で描いたY-V皮弁というものも含まれています。この2個のZ形成とY-V皮弁による延長効果+「山」を「谷」にする効果を利用して、現在では指間や腋窩の拘縮手術にも用いられます(もともとは内眼角贅皮(目頭の余剰皮膚)に対して用いられていました)。この手術は瘢痕形成が起きている部分に行うことが多く、可動性や血流が悪いこともあるので繊細な手術です。