リンパ浮腫
リンパ浮腫
体の中には、動脈と静脈のほかにリンパ管と呼ばれる管があります。動脈から流れた血液は、体のすみずみまで行き渡った後に全て静脈に戻るわけではありません。静脈に戻るのは80~90%ほどであり、残りの10~20%はリンパ液としてリンパ管に流れます。 リンパ浮腫とは、何らかの原因でリンパ管の流れが滞ってしまい、結果として手や足にリンパ液が貯留してむくみが生じた状態のことです。いったん発症すると自然治癒することはなく、徐々に症状が悪化するため早めに治療を開始することが重要です。
特に原因がなく発症する原発性リンパ浮腫と、がん治療後などに発症する二次性リンパ浮腫に分類されます。日本では二次性リンパ浮腫がほとんどであり、特に乳がん、婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)、大腸がんなどの治療で、リンパ節を切除(リンパ節郭清、センチネルリンパ節生検)することによってリンパ管の流れが滞ることが最多の原因です。さらに、手術後に放射線照射を受けた方はリンパ浮腫を発症する可能性が高くなります。
リンパ浮腫の主な症状は、手足のむくみです。乳がんの手術後は手術を受けた側の上肢がむくみますが、婦人科がんの手術後では片方だけむくみが出るときと両方に出るときがあります。むくみは手術後すぐに出現することもありますが、10年以上経過してから出現することもあり、発症時期は個人差が大きいのが特徴です。軽度のむくみであれば治療を行いながら手術前と変わらない生活を送ることができますが、重度になると関節を曲げることができない、歩くことができないなどの症状が出現し、日常生活に支障をきたします。
また、リンパ浮腫ではむくみが出現する前に、手足の張りや重だるいなどの症状が出ることがあります。この時点では、医師が注意深く診察してもリンパ浮腫と診断できないことがありますが、検査を行うことで正確に診断することができます。そのため、がんの手術後に手足の張りや重だるい症状が出現したら早めに医療機関を受診してください。
リンパ浮腫に合併する重篤な症状として蜂窩織炎があります。蜂窩織炎になると、むくんでいる手足が急に赤くなり、強い腫れや39度以上の発熱が起こります。いったん蜂窩織炎が起こると外科的治療の効果が落ちることがあり、蜂窩織炎を繰り返す前に治療を行うことが重要です。
体の浅い部分にあるリンパ管の走行や機能を調べる検査です。手や足の先にインドシアニングリーン(ICG: indocyanine green)と呼ばれる薬を注射し、特殊なカメラを用いて観察します。リンパ浮腫の重症度や治療法を決めるのに有用です。ヨード系造影剤にアレルギーがある方はこの検査を受けることができません。
リンパ浮腫の治療では、保存的治療が最も重要です。保存的治療とは手術以外の治療法のことであり、圧迫療法、スキンケア、リンパドレナージ、運動療法などがあります。特に圧迫療法は必須であり、弾性包帯、弾性ストッキング、スリーブなどを用いてむくんだ手足を圧迫してもらいます。
保存的治療はリンパ浮腫の進行を抑えるのに重要ですが、保存的治療のみでは限界もあります。そのため、さらなる症状の改善のために手術が選択肢になります。手術法は①リンパ管細静脈吻合術(LVA: Lymphaticovenular anastomosis) 、②脂肪吸引術の2つがあります。
リンパ浮腫を発症すると手足が太くなりますが、太くなる原因は「リンパ液が上手く流れず滞っているため」だけではありません。もちろんリンパ液のうっ滞は重要な原因ですが、「リンパ浮腫が生じた手足の脂肪組織が大きくなるため」でもあります。現在でもはっきりとした原因は不明ですが、リンパ浮腫の脂肪組織は正常な部分よりも大きくなり、肥満と似た状態になることがわかっています。そのため、「うっ滞したリンパ液を排出すること」、「大きくなった脂肪組織を減量すること」が手術の目的になります。リンパ液を排出する方法がリンパ管細静脈吻合術(LVA)であり、肥大した脂肪組織を減量する方法が脂肪吸引術になります。当院では、リンパ管細静脈吻合術(LVA)と脂肪吸引術を同時に行うことにより、最大限の治療効果が得られるように取り組んでいます。
リンパ管を静脈につなぐことで、貯留したリンパ液を静脈に流す治療法です。手術用の顕微鏡を用いて0.5~1mmほどの細いリンパ管を静脈につなぐためスーパーマイクロサージャリーという高度な技術が必要ですが、1ヵ所が2~3cm程度のキズで済むため負担の少ない手術です。1回の手術で2~4カ所ほどのリンパ管と静脈をつなぎます。
リンパ管と静脈を吻合する際にナイロンという糸を用います。通常、糸には針がアタッチメントされており、糸の種類によって4-0、5-0、6-0、7-0などと表現します。数が大きくなるほど糸は細くなりますので、4-0ナイロンより5-0ナイロンの方が細く、6-0ナイロンより7-0ナイロンの方が細いということになります。
リンパ管細静脈吻合術で用いる糸は10-0、11-0、12-0ナイロンであり、髪の毛よりもはるかに細いものです。特に12-0ナイロンは髪の毛の1/10くらいの細さであり、肉眼ではほぼ見えません。
リンパ浮腫の手足に5mmほどの皮膚切開を数カ所行い、大きくなった脂肪組織を吸引します。手術後は弾性包帯による強い圧迫が1週間必要であり、その後はいつも使っている弾性ストッキングやスリーブによる圧迫を継続します。手術後1ヵ月間は夜間や就寝中も圧迫を行います。太くなった手足を細くするには最も効果が高い治療法です。
脂肪吸引を行うと、残存したリンパ管を損傷してリンパ液の流れが悪くなり手術後にさらに強い圧迫が必要になるという意見があります。しかし、リンパ管がある深さを避けて吸引することにより、そのリスクを最小限にすることができます。実際に、当院ではこれまで脂肪吸引後に圧迫を強くする必要があった方はいません。
リンパ浮腫となった手足の脂肪組織は大きい、かつ固く(線維化)なっており、痩身や美容目的の脂肪吸引器では十分な脂肪を吸引することができません。そのため、当院ではやや太め(と言っても4mm程度です)の吸引器を用いて効率よく脂肪を吸引しています。「うっ滞したリンパ液を排出すること」と「大きくなった脂肪組織を減量すること」の両面から治療を行っており、リンパ管細静脈吻合術(LVA)と脂肪吸引術を同時に行っています。
※手術費用の他に、診察料などがかかります。
※リンパ浮腫の手術は高額のため高額療養費制度の対象となることが多く、自己負担金の払い戻しがあります。
3割負担 | 約103,400円 |
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1割負担 | 約34,500円 |