
ニキビ跡
ニキビ跡
ニキビ跡は以下の3つに分類されます。
陥凹したニキビ跡であり、クレーターと呼ばれることもあります。一般的にイメージされるニキビ跡のことです。
炎症で毛細血管が拡張することによって生じる皮膚の赤みです。
ニキビ跡が赤く盛り上がった状態です。フェイスラインや背中のニキビに起こりやすいことが特徴です。
萎縮性瘢痕(クレーター)は、①アイスピック型、②ボックスカー型、③ローリング型に分類されます。
開口部は小さいのですが、アイスピックのように奥に深いタイプです。表皮、真皮を越えて深く凹んでおり、表皮や真皮からの皮膚の再構築が期待しにくく、最も治療が難しいです(深いやけどほど治癒するのに時間がかかり、きれいに治りにくいことと同じ理屈です)。
貨物列車(boxcar)のように四角にへこんでおり、ニキビ跡で最も多いタイプです。ニキビ跡は浅く、底面が平らになっています。真皮層が残っているため、最も皮膚の再構築を期待できます。
楕円形で緩やかに凹んでおり、底面がお椀のようになっているタイプです。ニキビの炎症が皮下に波及したことにより生じた瘢痕組織が、皮膚を引っ張り込むことによって生じます。
全ての種類のニキビ跡(萎縮性瘢痕、炎症後紅斑、肥厚性瘢痕・ケロイド)に対して有効な治療法というものは存在せず、ほとんどの方はいくつかの種類が混在しています。ニキビ跡の治療は医学的根拠が確立されつつあり、皮膚の状態を正しく評価することによりほとんどの方で改善させることができるようになりました。当院では有効性が広く認められているニキビ跡治療は全て行っていますので、最善の治療法を提案します。
ここでは最も治療が難しいニキビ跡である萎縮性瘢痕の治療法を説明します。
萎縮性瘢痕の治療は、端的に表現すると2つしかありません。それは、「表皮や真皮からの皮膚の再構築を促進する治療(ケミカルピーリング、ダーマペン、フラクショナルレーザー、炭酸ガスレーザー、ポテンツァ、トレチノイン、TCAクロスなど)」と「ニキビ跡の深部にある瘢痕を解除する治療(サブシジョン)」の2つです。
「表皮や真皮からの皮膚の再構築を促進する治療」にはいくつかの方法があり、この再構築のきっかけを薬剤で与えるものがケミカルピーリング、トレチノイン、TCAクロス、針で与えるものがダーマペン、針とラジオ波で与えるものがポテンツァ、レーザーで与えるものが炭酸ガスレーザー、フラクショナルレーザーになります(炭酸ガスレーザーとフラクショナルレーザーは組織を蒸散させる点では共通していますが、ニキビ跡に対する照射方法は全く異なります)。その一方で、「ニキビ跡の深部にある瘢痕を解除する治療」は今のところサブシジョンしかありません。そのため、ニキビ跡の治療の原則はサブシジョンを行い、さらに「皮膚の再構築を促進する治療」を追加するということになります。
「皮膚の再構築を促進する治療」は治療効果、ダウンタイム、費用の3点を考えて選択するのがいいと思います。一般的にダウンタイムが長いものほど治療効果は高くなり、ダウンタイムが短いものほど治療効果は小さくなります(残念ながら、ダウンタイムが短くて治療効果も高いという夢のような治療法はありません)。個人差やニキビ跡の状態、治療歴によっても左右されますが、おおよそ治療効果とダウンタイムの関係は以下のようになります。
炭酸ガスレーザー>フラクショナルレーザー≧ダーマペン>ケミカルピーリング>トレチノイン
トレチノイン≧ケミカルピーリング>ダーマペン≧フラクショナルレーザー>炭酸ガスレーザー
皮膚の下の瘢痕組織によって皮膚が引き込まれたタイプのニキビ跡を改善させます。局所麻酔を行った後に、サブシジョン用の針で瘢痕組織を引きはがし、キズが治る力を利用して凹みをなだらかにします。単に癒着をはがしただけでは再度癒着する可能性があるため、ヒアルロン酸や脂肪注入を行うことで再癒着を予防します。全顔などの広範囲の治療もできますが、まずは小範囲の治療から開始し、瘢痕組織の程度や治療効果を確認しながら範囲を広げていくことをお勧めします。
一般的にはローリング型のニキビ跡に適応とされていますが、アイスピック型やボックスカー型も皮下組織の瘢痕があるため、全てのニキビ跡に適応があります。
皮膚に含まれる水分に反応して組織を蒸散させるレーザーです。ニキビ跡の表面に照射することで、皮膚の表面の組織を蒸散させ、皮膚の再生を促します。ニキビ跡の治療では、ニキビ跡のみに照射するのではなく、ニキビ跡周囲の正常皮膚にも照射することでニキビ跡周囲からの皮膚の再構築が起こります。さらに、ニキビ跡の陥凹を改善させることで「ニキビ跡っぽさ」を改善させることができます。
照射した部位はごく浅いキズになりますので、1週間ほど軟膏処置が必要になります。その後、1~2か月間ほど赤みが続きます。最もダウンタイムが長い治療法ですが、最も皮膚の再構築効果と治療効果が期待できます。
フラクショナルレーザーは、皮膚表面にごく小さな点状の穴を多数あけ、そこから皮膚の再構築を期待するレーザーです。施術前に麻酔クリームを塗布しますので、痛みはほとんどありません。
ニキビ跡の治療だけでなく、毛穴や皮膚の引き締めにも使われます。赤み、腫れ、かさぶたなどが生じますが、1週間~10日間ほどで軽快します。2週間~1ヵ月ごとに5回程度の施術を行うことで、治療効果を実感できることが多いです(特にボックスカー型)。
髪の毛よりも細い極細針を電動でコントロールし、皮膚に微細な穴を無数に開けることで皮膚の創傷治癒を引き起こし、ニキビ跡を改善させる治療です。広い範囲のニキビ跡や同時に皮膚の引き締めを行いたい方に向いています。施術前に麻酔クリームを塗布しますので、痛みはほとんどありません。
施術後は赤みや出血がありますが、出血するくらいしっかり治療する方が効果は高くなります。ダウンタイムは3日~1週間ほどです。2週間~1ヵ月ごとに5回程度の施術を行うことで、治療効果を実感できることが多いです(特にボックスカー型)。
毛穴のつまりや古い角質を取り除き、皮膚の新陳代謝を促します。ゆっくりとニキビ跡を改善させる効果が期待できますが、ニキビができにくくなることに加え、肌質を改善させることに大きな効果があります。2週間~1か月に1度のペースで行いますが、1回行っただけでも肌質が改善したことを実感できることが多いです。
ケミカルピーリングはダウンタイムや副作用が少なく、手軽に行いやすい治療です。
シミを薄くする外用薬として知られているトレチノインですが、皮膚の新陳代謝を促す作用があります(その作用を利用してメラニンを排出することでシミが薄くなります)。そのため、ニキビ跡に対しても有効であり、シミ治療と併行して行うことができます。
TCA CROSSとはTrichloroacetic Acid Chemical Reconstruction Of Skin Scarのことで、高濃度のトリクロロ酪酸(TCA)を塗布することで皮膚の再構築を促します。液体による治療のため深いニキビ跡にも有効で、主にアイスピック型の治療に用いられています。
しかし、TCAクロスはAcidという単語が含まれていることからもわかる通り「酸」の作用で皮膚に障害を与えます。ニキビ跡の治療では、皮膚の再構築を促す深さや範囲を厳密に調整することが重要です。TCAクロスでは影響を与える範囲を微調整することが難しく、効果が乏しい、あるいは逆に悪化や色素沈着を起こすリスクがあると考えており、当院では採用していません。
皮膚は浅いところから表皮、真皮、皮下組織という構造に分かれますが、真皮や皮下組織に損傷や炎症を生じると、皮膚が瘢痕組織という硬い組織に置き換わります(表皮のみの損傷は上皮化という機序で再生するため、瘢痕組織に置き換わることなく、跡を残さずに治癒します)。さらに、損傷や炎症が起きた組織は縮んで治癒する性質があるため、ニキビが繰り返しできることによって徐々に組織が収縮し、皮膚が陥凹してニキビ跡になります(深い熱傷やケガが縮んで治るのと同じ理屈です)。つまり、ニキビ跡(萎縮性瘢痕)は正常皮膚が瘢痕組織によって置き換わること、組織が収縮することで皮膚が陥凹することによって起こります(実際に、ニキビ跡は英語で「acne scar (acne:ニキビ、scar:瘢痕)」と表現されます)。
創傷治癒を専門とする私たちは、瘢痕によって組織が収縮した状態を治療する際に、瘢痕を切り離すこと、そして切り離したことによって不足した組織を外から補うことを考えます。例えば、このように熱傷で皮膚が拘縮し、関節が動かなくなった方を治療する際、私たちは拘縮した部分の皮膚を切り離し、生じた皮膚の欠損に対して他の部分から植皮(皮膚移植)や皮弁移植(血流のある組織の移植)を行うことで、不足した皮膚を補います。
では、ニキビ跡の治療について考えてみます。ダーマペン、フラクショナルレーザー、ポテンツァ、シルファームなどは、表皮や真皮にあえて損傷を加え、創傷治癒を促すことによって、皮膚の再構築を促す治療です。足りない組織を外から補うような治療ではありません。では、本当にこうした治療のみで皮膚の瘢痕組織が減少し、収縮した組織を補うだけの皮膚の再構築が起こるのでしょうか?
結論としては、瘢痕形成や組織の収縮の少ないニキビ跡(主にボックスカー型)には効果が期待できますが、ローリング型やアイスピック型は多少の皮膚の再構築程度では治療効果を実感することができません(もちろん個人差はあります)。
そのため、さきほどの熱傷の例で説明したように、ニキビ跡の治療においても瘢痕を切り離すこと、他の部分から組織を補うことが重要な治療選択肢です。ニキビ跡の治療において「瘢痕を切り離すこと」にあたるのがサブシジョンであり、「他の部分から組織を補うこと」がヒアルロン酸(あるいは脂肪注入)になります。一般的にサブシジョンはローリング型に有効とされていますが、実際にはアイスピック型やボックスカー型も皮下組織(正確には真皮とSMASという筋膜の間)の瘢痕形成がありますので、どの種類のニキビ跡にも有効です。そのため、ダウンタイムを許容できるのであれば、「サブシジョン」+「ヒアルロン酸 or 脂肪注入」+「皮膚の再構築を促す治療」というのが現代医学で妥当なニキビ跡治療です。
ヒアルロン酸は6ヵ月~1年程度で吸収されます(種類によります)が、それまでにサブシジョンを行った部位で組織の再構築が起こることが期待できます。ただし、サブシジョンで切り離したところに再度の癒着が生じる可能性は否定できません。そのため、サブシジョン後に自然吸収されない脂肪注入を行う方法が海外では論文として報告されています(Shetty VH, J Cosmet Dermatol, 2021)。ニキビ跡の治療は難しく、今後も治療を発展させる必要性があり、当院は日本ではほとんど行われていないニキビ跡に対するサブシジョン+脂肪注入を行っています。